確かな残像 | ひとりごと | 心理カウンセラー 衛藤信之 | 日本メンタルヘルス協会

えとうのひとりごと


■確かな残像
2009年6月2日



 6月に入ってしまった。もう一年の折り返し。「ひとりごと」をホームページに投稿しなければと思いながら、こんなに時間がたってしまった。でも、「時間を忘れている時が、一番、時間を大切に使っている時だと思う」と以前テレビCMにあった。

 毎日、毎日、完全燃焼して生きていると時間がたつのが早い。アインシュタイン博士は、高速に近づくと時間はゆっくりと進むと言う。毎週、博多、大阪、名古屋、東京と四か所で、心理学ライブ舞台を演じていると、体内時計と、現実に流れている時間のスピードがズレルのかもしれない。だから、いつまでも僕は歳とらないのだと、身勝手な理屈で、忙しい我が身を慰めている。

 時間を大切にしている時は、時間を意識しない。一日、何の予定もなく「退屈だなぁ」と意識して過ごしている時には、一日がとても長い。
 一方、朝から予定を組んで、いろんなことをやっていると、こんなに一日で、たくさんのことが出来るのだと、感動するものです。だが、あまり僕みたいに忙しいのも考えものだけど・・・・・

 今、この「ひとりごと」を新幹線の中で書いている。特に、博多に向かう車内には、ビジネス・パーソンよりも、年配のツーリストが多い。ゆっくりした動き、穏やかな笑い声。日本一早い新幹線の中で、穏やかな時間だけが、そこに、ゆっくりと流れてゆく。いつか、自分も時間を眺めながら、過ぎ去った歳月を優しくなでるように、旅に出るのだろうか。

 若くして母が死に、僕の育ての祖母が昨年逝った。
 今でも若さを感じる父もやがて逝くのだろうか・・・・今でも、我が家に何年かぶりに父が電話かけてくると「ボウズいるか?」と妻にたずねる。妻は笑いながら「ボウズさん、お父様から」と電話を渡す。でも、それが、なんだか嬉しくて。

 世界広しといえども、不惑の年齢を過ぎた僕を「ボウズ」と呼ぶのは彼くらいなのだから・・・・だから、僕も息子をいつまでも、「ボウズは居るか?」と訊ねる人になりたいと思う。そんな、いつまで常識はずれの男に・・・・

 大人として社会人として立場は変わっても、僕も人の子だと謙虚に思わせてくれる人。どこまでいっても、後ろから笑い飛ばしてくれる人。そんな、負けん気が強く、いつまでも男くさい人に。

 僕も、そのやんちゃな人柄を受け継いでいるようです。そのバトンを、僕も次の世代に渡したいと思っていますよ、父さん・・・。
 そう、今、流行りの草食系男子には、僕たちはなれそうにないから・・・・

 今、お年寄りの団体が降りてゆきました。今までの生きてこられた歳月を僕はねぎらいながら、ほんの少し会釈をして彼らを見送る。ゆっくりとした足取りで、しっかりと踏みしめ降りてゆく。高速で走る車両から、自分の人生に向かって・・・・・


   手紙 〜親愛なる子供たちへ〜  作者不詳・日本訳:角 智織

  年老いた私が ある日 今までの私と違っていたとしても
    どうかそのままの私のことを理解して欲しい

  私が服の上に食べ物をこぼしても、靴ひもを結び忘れても
    あなたにいろんなことを教えたように見守って欲しい

  あなたと話す時 同じ話を何度も何度も繰り返しても
    その結末をどうかさえぎらずにうなずいて欲しい

  あなたにせがまれて繰り返し読んだ絵本のあたたかな結末は
  いつも同じでも私の心をいつも平和にしてくれた

  悲しい事ではないんだ 消え去ってゆくように見える私の心へと
    励ましのまなざしを向けて欲しい

  楽しいひと時に 私が思わず下着を濡らしてしまったり
    お風呂に入るのをいやがるときには思い出して欲しい
  あなたを追い回し 何度も着換えさせたり 様々な理由をつけて
    いやがるあなたと お風呂に入った 懐かしい日のことを

  悲しいことではないんだ 旅立ちの前の準備をしている私に
    祝福の祈りを捧げて欲しい

  いずれ歯も弱り 飲みこむ事さえ出来なくなるかも知れない
  足も衰えて立ち上がり事すら出来なくなったなら
  あなたが か弱い足で立ち上がろうと私に助けを求めたように
    よろめく私に どうかあなたの手を握らせて欲しい

  私の姿を見て悲しんだり 自分が無力だと思わないで欲しい
  あなたを抱きしめる力がないのを知るのはつらい事だけど
    私を理解して支えてくれる心だけを持っていて欲しい

  きっとそれだけで ただ、それだけで 私には勇気がわいてくるのです
  あなたの人生の始まりに 私がしっかりと付き添ったように
    私の人生の終わりに少しだけ付き添って欲しい

  あなたが生まれてくれたことで私が受けた多くの喜びと
  あなたに対する変わらぬ愛を持って笑顔で旅立ちたいから

   私の子供たちへ
   愛する子供たちへ


 
 先日、TV番組のサザエさんで、カツオくんとワカメちゃんが話し合っていた。いつも自分たちの家での探しものは、お母さんが探し物のプロとして見つけてくれる。でも、自分たちがお母さんの失くしたものを探すようになるのは悲しいことだと。いつまでも、お母さんが探し物の達人であって欲しいと・・・・

 磯野家のカツオくんとワカメちゃんが、こんな意味深いことを語っていたことにも驚いたが、同感だなぁ。僕も「ボウズは元気か?」といつも言われる側でいたい。でも、いつかこの電車と同じ終着駅に誰もが着く。それをたとえ誰もが望んでいなくても・・・・

 僕もいつか老いた足取りをふり返り、歩き切った人生のすべての人に感謝ができればいいと思う。出会った多くの悲しみと、多くの喜びに・・・・

 そして、その人生という旅で、出逢った多くの仲間に感謝できる日を持てることをいつも願っている。そんな思いの僕を乗せて、時間電車は休むことなく、今も確かに走っている。今と言う時間を過去に残して・・・・・・













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