死の向こうにあるもの | ひとりごと | 心理カウンセラー 衛藤信之 | 日本メンタルヘルス協会

えとうのひとりごと


■死の向こうにあるもの
2000年10月30日
 夏が過ぎて、もうスピードで秋を飛び越して、冬が来そうな勢いです。この時期、騒がしい街中にも、心なしか静けさが舞い降りたような気がするのは、僕だけではないでしょう。
今日、東京の受講生のお父さんが亡くなられた・・・・

 親の死。誰もが経験することだろうが・・・やっぱり寂しい。

 僕も「育ての母」、「産みの母」の死を経験している。小学校時代の育ての母が死んだ日は、ただ震えていた。死が怖かった。そしてたくさんたくさん悲しくて涙を流した。その頃は、この涙が何者であるか判らなかった。今はこう思っている、この死に対する感情は“寂しい”のだと。

 僕の長男が、8年前に小児ガンの宣告を受けた時、僕は悲しかった。怒りを感じた。くる日もくる日考えた、彼はどうして生まれてきたのだと。こんなに彼自身も周囲も苦しむのに、なぜに生まれて来たの?と・・・

 その時に思い出したのが、キューブラー・ロスの『死の瞬間』と邦題がついた本でした。彼女は、一度医学的には死に、再び蘇生した人々を2万人調査した女医さんです。多くの蘇生者に面接を繰り返した結果、蘇生者の多くに共通する体験があると言うのです。それは、この人たちが死んだあと自分を愛してくれた人、自分が愛した人で、既に死んでしまった人たちと死の世界で会えたというのです。そして次に、多くの人達が、慈愛に満ちた、何ともいえない柔らかい光に包まれたと言います。しかし、そこから奥へは行けず、息を吹き返してしまったそうです。この光に包まれるというのはチベットの『死者の書』にも出てきます。

 これらの報告を、彼女は宗教的な押しつけも無く、イデオロギーめいた宣伝でもなく、一人の医者として、患者のアンケートを報告するのと同じレベルで淡々報告しているのです。
 ロスは、小児ガンの子供たちが「先生、僕らはどうなるの」と聞かれた場合には、「蝶がさなぎの殻を残して旅立っていくでしょう。あなたたちは、あれと同じように、ここにさなぎの殻を残して行くだけなのよ」と答えたそうですが、子供たちは不思議とこの話に納得してくれたと言います。

 多くの宗教にも同じような教えがあります。

 仏教では、宇宙の生命は、草や石や水に宿り、鳥や獣にも宿ると。大きな生命体の一部が、形を変えて人間や自然の中に宿っていると言います。キリスト教にとっても神は人間の外にあるだけではなく、自分の内にあって自分を生かしてくれているのです。イエスは人体を神が住む神殿と喩えました。

 ですから、僕はこの時、仏教でいう修行とは、生きることなのだ。人生は“修行の場”だと思いました。息子は「修行の期間が短いのだ」とそう思うと、「怒り」が「寂しさ」に変わった。いつかまた彼に会える。僕より先に「次の世界」に行って、僕を道案内してくれるのだと。「迎えに来たよ。大丈夫さ僕が居るからね。安心してよ。前の世界では、あなたが迎えてくれたけど、今度は父さん、僕が案内してあげる。父さんはそそっかしいからね」
 そう考えた時に、理屈ポイ僕がなぜだか、論証はできなくても信じられたのです。それは、僕の中で誰かがそれを「そうだよ、それで良いのだ」と言って追認した瞬間でした。

 その後、長男は奇跡的に再度、命をいただき小学生として、いまも僕と一緒に修行の旅の真っ最中です。本当に、ありがたいことです。なぜなら、僕が次の世界でも彼を迎えてやりたいから。
 ですから、産みの母が、孫と同じ場所にガンが出来て入院した時、母の優しさを感じた。
そして母は次の世界に旅立った。
優しい人、離れて暮らした息子のため、孫のため、死を受け入れていたように思う。だから、産みの母の時は、小学校の育ての母が亡くなった時の「死の恐怖」は無かった。ただ、寂しかった。せつかく再会できたのに。また、「しばらく離れ離れですね」。そんな感じだろうか。

 だから、今夜、悲しんでいる受講生にメールを送ろう。

 季節もさびしくなると言うのに、さびしいことの連続ですね。
人生の最初に出会い、よちよち歩きの君の手を取り未知の世界である、この世での生き方を導いた、その親との別れはさびしいですね。

 でもね、これで君も、次の世界で会いたい人ができましたね。
一足先に、お父さんが次の世界へ下見に行きました。昔、君が手を取ってもらって安心できたように、またもや、お父さんが君を正しく導くように先立たれたのですから。しばしのお別れです。また、会えることを夢みて。
 一時の別れを、あまり君が悲しむと、お父さんの旅立ちは、後ろ髪ひかれる事になります。泣いてもいいけど、心の中で「行ってらっしゃい。また、会おうね」と送り出してください。君にはそれができますね。
 今度、お父様に会う時のためにも、君が実り多き人生を歩かれることを祈ります・・・・・。
                         カウンセラー衛藤 信之

僕は今も憶えています。あなたのお父さんが講演会に来てくださり、握手した時の、あの優しいまなざしを。出会えて光栄でした。

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